トヨタ自動車に入社し、自動車データの収集〜分析基盤の研究開発やっていきます

https://www.toyota-tokyo.tech/ より。大手町オフィスの様子。

人生初の転職エントリです。お手柔らかにお願いします。

2021/09/01付でトヨタ自動車株式会社に入社しました。
大手町オフィス というソフトウェアエンジニアが多く集まる場所で、自動車のデータ収集から分析まで、エッジ(自動車)からクラウドまでの研究開発をやっていきます。

目次

転職活動の軸

今までの1回の新卒入社と2回の転職ではほぼ直感でズバズバ決めてきたのですが、今回の転職では自分なりにきっちりと転職活動の軸を決めて臨みました。

必須要件

  • 年収: XX円以上(ストックオプションなどを加味して減額することあり)
  • 業務内容: ミドルウェア以下の自分が好き&得意な領域の研究開発

嬉しい条件

  • 一緒に働きたいと思える
  • よい 事業内容

業務内容(やりたいこと)について

「ミドルウェア以下の自分が好き&得意な領域の研究開発」をやりたいと述べましたが、研究というのは必ずしも「論文を書くぞ!」ということではないです。
先端で行われていることを広く深く調べ、世の中にまだないけれども必要になってくるものを、小さな進歩でも良いのでアイディアから造りたいという思いです。そしてそれをアイディアで終わらせず、エンジニアとしてソフトウェアにしたいと考えています。
また、アイディアを論文やカンファレンスでの発表の形でひろく社会に還元できれば、それも大変うれしいことです。

ミドルウェア以下というのは、学生時代から一貫して興味を持っている領域です。小さい頃からものづくりが好きで、特に原理原則に従って動作がよく理解できるものをつくることに喜びを感じます。本当は回路やハードウェアにも興味はあるのですが、そこは経験が足りず、「好き」かつ「得意」となると、

  • コンピュータアーキテクチャ
  • OS
  • コンパイラ
  • データベース
  • 分散ストレージ

などになります。

学部・大学院(修士)の研究室は分散並列処理や高速化に関することならある程度何でもやれるところで、細粒度(ユーザーレベル)スレッド処理系・科学技術計算・分散データベースあたりをいじっていました。

とりわけRDBMSは、要素技術がミドルウェア以下の総合格闘技の様相を呈している(言語処理・トランザクション・高速化・etc)と自分には感じられ、かなりの熱量を持ちました。
大学院時代にIPA未踏事業でSQLiteを高速化したり、DeNAの長期インターンにてMySQLのプラグイン(Q4M・HandlerSocket・独自の「SQLiteをストレージレイヤにするストレージエンジン」)を開発する貴重な機会を頂いていました。

大学院を出てもミドルウェア以下に関わっていきたいと考えてきましたが、過去3箇所の職場ではその機会に恵まれませんでした。
新卒採用ではメガベンチャーに入社。その後創業期スタートアップに転職。直近は成長期のスタートアップでした。
それらの会社では上述のようなやりたい業務内容ができたわけではなかったものの、
大規模トラフィックなWeb APIの設計開発・複雑なドメイン知識のモデリング・CI/CDなど、つぶしの効く技術を磨くことができたり、
種々のマネージメント業務を経験し、得意領域(プロジェクトマネージメント)・人並な領域(プロダクトマネージメント)・苦手領域(ピープルマネージメント)を体験的に把握できたことは幸運でした。
ずっとミドルウェア以下だけを追求するよりも視野が広がり、ミドルウェア以下のシステムの研究開発にも役立てられそうな知見を蓄えてこれたかと思います。

これらの本業遍歴の傍ら、趣味ではVLDB (データベース領域のトップカンファレンス) の論文をつまみ読みしたり、OSSでライブラリ開発をしたりして過ごしていました。
あるタイミングから個人事業主での活動も始め、いくつかの会社でRDBMS開発や、TEE (プロセッサのセキュリティ機能) のライブラリの開発に携わることもでき、概ね幸せに過ごしておりました。

ですが、やはり自分が一番時間を使う本業でミドルウェア以下の研究開発をやりたいという思いが日に日に大きくなり、今回の転職活動に至りました。

なぜトヨタを選んだか

いくつかの会社様から面談・面接の機会をいただき、必須要件である「年収」と「業務内容」を満たす会社は最終的にトヨタを含め2社でした。
あったら嬉しい条件である「人」の面も「事業内容」の面もどちらの会社も素晴らしく、かなり悩みましたが、腰を据えて自分の能力を発揮し会社や社会に貢献していく姿をイメージし、トヨタに決断しました。

自分が応募したのはトヨタ大手町の
【東京】先進モビリティ基盤向け高効率データ処理・データ管理技術の研究開発
という募集です。
今回の転職ではエージェントサービスも利用していたのですが、この案件をエージェントからご提示いただいたときに目を引いたのは応募資格でした。

<MUST>
■コンピュータサイエンスもしくは電気工学における修士号
■データベースもしくは分散処理における研究経験(2年以上)

<WANT>
■分散並列データベース
■OLTPまたはバッチ処理向けクエリ処理とその最適化技術
■ストレージ/インデックス/物理データベース管理システム設計
■機械学習に基づくシステム最適化
■車両-クラウド及び車車間ネットワーク通信のプロトコル設計
■ダイナミックマップを含む時空間データのための
不確実性・確率的・近似的データベース
■インシデント検出のためのストリーム処理、センサネットワーク、
複雑なイベント処理技術
■グラフデータ管理、道路ネットワークやRDFの文脈クエリ

「トヨタってこんなレベルのエンジニア探してるの!!?」と驚きました。高い要求水準に興味を惹かれ、幸い自分が今まで触れ続けていた分野と親和性が高かったため、半信半疑で応募に進みました。

正直なところ不安はありました。なぜ自動車を作る会社でこの種のエンジニアが必要か、当時の自分には理解できていませんでした。
それに、トヨタレベルの歴史ある大企業において、アジリティの追求や生産性の高い開発環境への身軽な取り組みができるのかにも懐疑的でした。

カジュアル面談でその不安は大部分解消されることになります。
面談を担当してくださったのは、自分が入社したら所属することになるチームのリーダーの方でした。
今ご自身のチームがやっている業務や抱えている課題を、手触り感のある形でお話しいただき、
「なるほど。自動車は携帯電話網でインターネットに繋がってるエッジコンピューターなんだな。そのデータを集めて利活用するデータフロー整備とデータ分析基盤が要るんだな。自動車の台数や走行中の環境変化の激しさを考えるとデータの質・量ともにチャレンジングだな。」
というのが理解できました。
チームリーダーの方は、データ基盤やエッジコンピューティングの確かな知識をお持ちな中、非常に柔和な物腰の方で、「この人と一緒に働きたいな」とすぐに思える方でした。
カジュアル面談の最後で「ぜひ中谷さんと一緒に仕事がしたい」と真っ直ぐに伝えていただき、ノックアウトです。

この時点で、トヨタは自分がバリューを発揮できる、決して簡単ではないデータ基盤の課題を抱えていて、それに対してきっちりと取り組んでいる、尊敬できる人がいることが明確になりました。

残る不安である、アジリティやモダンで生産性の高い環境については自分で調べました。ありがたいことに、近年のトヨタは採用応募者が見たい情報をたくさんオープンにしております。

これらを時間の許す限り観た結果、最先端とまでは行かずとも、ソフトウェアオンリーの企業と比較しても遜色ない開発プロセスや環境があることが分かりました。それだけではなく、

  • 社長のビジョンの一貫性・社内外への強い影響力
  • ビジョンに根ざした、国内外における大きな取り組み(自動運転、Woven City、燃料電池)
  • コネクティッドカンパニー(というトヨタ内のバーチャルカンパニー)における、我々低レイヤーソフトウェア技術者の大きな需要

を知ることができました。

更に、面談を通して福利厚生や労働環境面も(さすが)素晴らしいものが色々あるとわかりました。もっと打ち出せば採用のフックになるのになあと思う次第ですので、表に出せるないか掛け合ってみます。

面接では技術的に高度なことも色々聞かれましたが、結果的に内定をいただきました。
他の魅力的な企業とも比較して非常に悩みましたが、最終的には以下のように考えてオファーを承諾しました。

  • トヨタ⾃動⾞は「⾃動⾞」というエッジコンピュータを全国・全世界に供給しており、そこから取得できるセンサデータの利活⽤が今後ますます加速することが予想される。
  • そうなると、センサデータの収集・分析のためのシステムが必要となり、そのようなシステムは前提として⾼信頼性・⾼速性を持つ必要がある。
  • なおかつ、エッジコンピューティングがまだまだ発展の余地が多くある(⾃動運転の本格的な利活⽤が進むにつれ、収集すべきデータが種類や量に変化が⽣まれる。車載のコンピュータやネットワークも高度化していく。)ことを考えると、データ収集・分析のシステムは素早く、経済合理性を持って進化していく余地が必要。
  • つまり、「実社会のデータに基づいた⾼信頼・⾼速な分散データ基盤の研究開発。しかもAgility⾼く進化していく必要があるシステム。」という、⾮常にやりがいのあるミッションがある。
  • このレベルの研究開発は、並⼤抵の企業ではできない。スタートアップでは「まず適切なデータホルダーを探して、座組を決めるところから…」始まってしまう。⼤企業であっても、この不安定な世の中、トヨタほどのレベルでこのような分散データ基盤が継続的に価値を産み出すことがわかっている環境は(自分の知る限り)そうそうない。
  • 社長を中心とした一貫したビジョンと豊富な人的資源があり、やりきれる集団に思える。
  • 自分が貢献できれば、自動車という社会インフラの価値向上に確実につながる。大変誇れる仕事。

終わりに

まだトヨタでの仕事は始まったばかり(正確にはこれを書いている頃には始まってすらいない)ですが、初心を忘れずにチーム・会社・顧客・社会に貢献していきたいと思います。

最後になりますが、 We are hiring! です。採用ページもあるのでそのはずです。
もしご興味もってくださった方は、Twitterなど何でも良いのでお気軽にご連絡・ご質問ください。

それでは初日の仕事、しっかりやってきます🚗💨

author Sho Nakatani a.k.a. laysakura

東京大学大学院 情報理工学系研究科 電子情報学専攻 修士課程で並列分散処理・ストリーム処理・データベースを研究。
2014年4月に株式会社ディー・エヌ・エーにエンジニアスペシャリストとして入社し、ソーシャルゲームのサーバサイド共通基盤の開発に従事。
2016年8月より、オンライン証券会社株式会社FOLIOに入社。バックエンドシステム開発・プロジェクトマネージメント・Engineering Managementに従事。
2020年3月よりIdein株式会社所属。デバイス・高性能計算関連の研究開発。
2021年9月よりトヨタ自動車株式会社所属。自動車データの収集〜分析基盤の研究開発に従事。
その他個人事業主として、RDBMS開発やIntel SGXを利用するためのライブラリ開発などの活動。