トヨタの3.5ヶ月のソフトウェアエンジニア(研究開発)生活を振り返る

https://www.toyota-tokyo.tech/ より。大手町オフィスの様子。

前回の転職エントリから3.5ヶ月、すなわちトヨタに入社してから3.5ヶ月が経ちました。
3.5ヶ月間とても気持ちよく働けたので、振り返り記事を書いていきます。座右の銘は「後ろを振り返らない」だったのに、歳を取ると振り返りがちになるんでしょうか。

インターネットの向こうの皆様にもぜひ弊社に興味を持っていただきたいので、弊社の良いなと思うところを書きます。嘘で興味持ってもらっても誰も得しないので、嫌だなと思うところもちゃんと書きます。

目次

前提: 所属とか経歴とか

トヨタ自動車 コネクティッド先行開発部 InfoTech室 という部署に所属しています。リサーチエンジニアという肩書で、研究チックなこと・アーキテクトチックなこと・開発チックなことが主な職責です。
現代の自動車はクソデカIoT機器でありものすごい種類のセンサ積んでサーバとやり取りしてるし、自動運転とか考えるとエッジ処理もサーバ処理もすごいし、弊社は量産自動車メーカーだしで、ものすごい量と質のデータや処理と格闘するのが守備範囲です。
東京の大手町オフィスで元気に過ごしてます。

今までは メガベンチャー→スタートアップ→スタートアップ という職歴で、Webバックエンド中心に開発運用したり、種々のマネージメントをしてました。
半ば趣味だったデータベース・分散処理周辺の研究が本気でやりたくなって、縁あって9月にトヨタに入りました。

よかったこと1: 機会がめちゃ多い

本体も大きいしグループ会社も大きいし色んな会社と取引もあり、色んなお得情報がメールで流れてきます。ちゃんと見逃さずに興味のあるものに手を挙げていけばかなりの経験ができます。
印象に残ってるものを列挙します。

  • 弊社で開発中の自動車に体験乗車できる(ただし運転するには免許の他に社内の研修を突破する必要あり)
  • 社内で自部署・他部署の成果展示会 (今年はWeb) が結構な頻度であり、ソフトウェアに限らず、自動車会社の最新の研究開発を知れる
  • お付き合いのある著名な会社が、大口相手ということで本気の提案をしてくる。提案を聞いてるだけでめちゃくちゃ技術的に勉強になる
  • 結構な💰を積まなければ参加できない車載機(車の中のコンピュータ)セキュリティの実践的な研修に参加させてもらえる(かも。まだ調整段階)

スタートアップも「自分が何でもできる(しなきゃいけない)」という意味で機会は多いですが、弊社は「自分の周りに機会がポコポコ生まれてる」という感じで、より幅優先的に広いチャンスがあります。

よかったこと2: 分散データ処理屋にとっては最高の戦場では?

冒頭にもちょっと書きましたが、現代の自動車本当にコンピューター。カメラもレーダーもその他色んなセンサーも付いてるし、台数が全世界で見ると本当にすごいし、サーバサイドのデータはPB・数年後にはEBクラスと予想されています(一応注: 弊社独自予想ではなく色んな所で言われてます)。
自動運転、そのちょっと手前の運転補助機能など考えると、すべての処理をサーバサイドに任せていてはレイテンシの間に事故ってしまうし、エッジ処理も大事。
無理くり理屈をこねずとも面白い対象がゴロゴロ転がっていてすごいです。自分はあまり明るくないですが、データサイエンスな方々にとっても面白い戦場だと思います。

よかったこと3: 伸び伸び研究開発させてもらえる

もちろん自分がやりたいことを会社にとってどう貢献するかを描いて意思決定者に納得してもらうことは必要ですが、自分の例や周りの例を見ていても、合理的な提案はちゃんと通っているように見えます。
先人や同僚の頑張りで、研究や技術の下積みもしっかりしてるし、何より予算が本当に潤沢です。スタートアップと比べて一番ありがたいのはここかな…

私も今後車載機やらIoT機器の中で走らせたいストリーム処理系をOSS公開させてもらったり、今はそれについての論文を執筆したりと、まさに入社前に思い描いていたような仕事をさせてもらえています。
上記のストリーム処理系はまだアイディアに実装が追いついてない感じだしREADME駆動開発している関係でREADMEが一部信用できなかったりなので、色々と整ったら別途宣伝します…💪
論文もちゃんと投稿できてacceptされたらブログとかtwitterでご報告するので優しい気持ちではてブやfavください。報告なかったらお察しください。

よかったこと4: 偉い人はすごい

なにぶん人数がものすごく、すごい人みんなに偉いポジションがあるわけではないですが、自分の観測範囲の偉い人はおしなべてすごいです。技術的に長けていたり、物事を回すのがうまかったりですごさは色々ですが、偉い人がちゃんと尊敬できるっていうのは心が安らぐものですね。

びっくりしたこと1: 同じ会社に知らない部署がすごいある

全社メールみたいなので他の部署の名前を知ることがあるのですが、もう本当に初見のところがたくさんあります。これは自分の社歴の浅さもありますが、社歴が長い人でも知らない部署は平気である模様。

びっくりしたこと2: 組織をまたいだディレクションがすごく緩い

少なくとも平の私から見ると。ビジョンや目標は共有されているものの、部署をまたいだ戦術の共有はされなかったり薄かったりで、「あっちもこっちも似たようなことやってる!」と思うことが多々あります。
最初のうちは「縦割り〜〜〜〜」と斜に構えて見てたのですが、最近になってだんだんと、

  • (グループ含めた)社員の人数・人の多様性がものすごくて、世界の人々からランダム(は言いすぎだが)サンプリングされた人たちの中で
  • 色々な営みをして自然淘汰が起こり
  • 生き残った営みがプロダクションのサービス・自動車になって世に出てる

という風に解釈するようになりました。ある意味でものすごいロバストな系だと思います。こういう土壌が、昨日世間を良い意味で驚かせた全方位戦略を生み出してるといった見方もできるのかなと。

チョット嫌なこと1: コミュニケーションツール

大手町オフィスは情シス的な方々の頑張りのおかげでSlackやらGSuiteやらを使わせてもらえてるのですが、いかんせん全社的にはまだまだメール文化です。
社内イントラネットでWindowsであのブラウザじゃないとアクセスできない全社連絡サイトみたいなのもあります。

Slackもあると言いましたが、流量がすっごく少ないです。凪。
実はDM率がものすごく高くて、情報の透明性という意味では不満は残ります。ただしこれは仕方のない面もあって、弊社は協力会社の方や出向でいらしている方も多く、かつ商業的・技術的価値の高い情報(知財など)も多くあるので、自然と保守的になるのはわかります。
とはいえもう少しオープンネスを重視しないと、トヨタ自身が求めているソフトウェアの内製化のための仲間づくりには苦労する部分が出てくると思っており、ガバガバオープンマンの自分としては粘り強く文化の醸成に取り組みたいところです。

最初からソフトウェアエンジニア的な風土がないと耐えられない方にはまだまだ厳しい環境かと思いますが、自分で変えてくぞという気概のある方なら大丈夫です。好き放題やってもあまり白い目で見られることはなく、一部の方から好意的な反応をいただけたりもします。

大手町オフィスだけでなく社長もSlackを使い始めたりなどしてるので、長い変革期の真っ只中といったところでしょうか。

チョット嫌なこと2: 稟議プロセス

ExcelファイルをWindowsの共有ドライブで特定フォルダにコピーしてチェック者にメールしてOKもらったら別のところにコピーして別のチェック者にメールして…
みたいな作業があったりします。潤沢な予算を活用させてもらうための儀式として歯を食いしばってますが、「いやいやワークフローツール!!!!!!!」みたいなお気持ちになることもどうしてもあります🥺
そういうことをわーわー騒ぐと丁寧に事情を説明してくださる人がいたりして暖かさを感じます。

人数規模が少ないと自分が気合い入れて手を上げれば課題解決できちゃうことも多いですが、このあたりはやはり大企業のつらいところでしょうか。

終わりに

まとまりも少なく色々と書きましたが、正直とても満足した3.5ヶ月を過ごせました。
今までの職場で一番自分にマッチしていると感じています。

インターネッツに向けた文章だと踏み込んで書けないこともたくさんありますが、まだまだ面白い話は色々と胸の内にあります。
もしご興味もってくださった方は、Twitterなど何でも良いのでお気軽にご連絡・ご質問ください。

最後になりますが恒例の。We are hiring! です。合う合わないはどうしてもあると思いますが、ソフトウェアエンジニア・リサーチャーの活躍の場としては、ものすごく天井が高い環境だと思います。
現代においてモビリティ企業が提供すべき価値は広範であり、熱意ある優秀な仲間がまだまだ足りてません。最近リファラル採用の機運も高まったりしています。
採用ページからみんなを待ってるぜ!!

author Sho Nakatani a.k.a. laysakura

JTCのプリンシパル・リサーチャーとして、セキュリティ・プライバシー・データ基盤に関する研究開発に従事。
CISSP/OSCP/BSCP/情報処理安全確保支援士(合格) 等の資格保有。CTF上位入賞多数。 セキュリティ関連の執筆・講演活動も行っている。
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